
一枚の茶葉は枝から解き放たれると、自然と対話する旅路に足を踏み入れる。茶木から離れたその瞬間から、茶葉は逆境を炉とし、萎凋、揉捻、発酵、乾燥、提香という幾重もの鍛錬を経て、ただの葉から茶湯へとなる。つまり「涅槃」に達し、生命が醸し出す奥ゆかしい香りで茶碗の中の物語を紡ぐ。
さあ、この一枚の葉の足跡をたどり、自然から禅の境地へと昇華する東華禅茶の世界に浸り、立ち込めるお茶の香りの中で千年の禅文化の奥深さと温かさに触れてみよう。

萎凋(いちょう)——時間を封印する
唐・宋の時代から、僧侶がお茶作りの技法を伝え、茶文化は徐々に仏教と融合し、お茶を「道」とする生活哲学を形成した。
東華禅茶は、古来のお茶作りの伝統を守り、自然条件への尊重と依存を巧みに融合させている。特に茶葉の初期処理においては、自然環境の力を借りることを重視している。

摘み取られた後、茶葉は風通しの良い環境に置かれる。自然の空気の流れによって徐々に余分な水分が蒸発し、葉が柔らかくなり青臭さが取り除かれる。
この工程は、茶葉の自然な香りを保つだけでなく、その後の揉捻や乾燥の工程にとって大事な基礎を築く。その中でも自然条件の選定は極めて重要であり、高品質な禅茶を作るための最初の技術的基礎となる。

『茶経』の中で、陸羽は茶の木は「日当たりの良い崖と日陰の林」に育つのが良いと明確に指摘している。この環境は、土壌が肥沃で日差しが適度で強すぎず湿度が一定であり、茶葉の品質と初期加工の成功を最大限に保証する。
このように自然と工芸を組み合わせる智慧は、禅宗の「因縁和合」という哲学的理念を体現しているだけでなく、後世のお茶作りに貴重な経験を与えてくれる。今年の東華禅茶は、昼夜の寒暖差により風味が一層甘くなり、爽やかさとまろやかさが重なり合う仕上がりとなっている。

揉捻(じゅうねん)——空間を打ち破る
揉捻工程の目的は、茶葉に含まれる茶汁を抽出し、茶湯の濃度と均一性を高めることにある。宋代に流行した点茶法は、茶餅を粉末状に砕き、後に均一に混ぜ合わせる必要があり、このことから、繊細な揉捻工程の重要性が分かる。

北宋の詩人、梅堯臣の詩句「六腑無昏邪」は、質の高い揉捻工程によって得られた茶湯が「五臓六腑を養う」という理念を描写している。これは単にお茶の楽しみ方だけでなく、仏教の茶道の作法におけるこだわりをも体現している。

発酵、乾燥——生命の状態を再構築する
禅茶の発酵工程は、お茶作りにおいて重要な過程であるだけでなく、発酵中、茶葉内部の酵素が湿度、温度、酸素の作用で徐々に複雑な化学変化を起こし、茶湯に豊かな層と独特の風味を与えている。
この工程は茶葉の「成熟」に例えられ、その香りは新鮮で爽やかなものから深みのある奥ゆかしいものへと変化し、茶の性質も強いものから柔らかなものへと変わり、包容力と穏やかさを帯びた性質が現れる。

乾燥は、カビを防ぐ保存方法であると同時に、茶葉の自然な特性を維持することができる。ゆっくりと均一な熱で、茶葉内部の余分な水分が丹念に取り除かれ、これにより保存期間が延びるだけでなく、独特の香りが引き出される。
火加減の正確な制御、適切なタイミング、そして茶葉をひっくり返すすべての動作には、茶師の最大限の集中力と多大な忍耐力が必要とされる。

提香(ていこう)——完全な顕現(けんげん)
提香工程は古代の茶事において非常に重要であり、茶葉の香りを高める重要な工程であるだけでなく、奥深い文化的意味と儀式的な意味合いも持っている。
『百丈清規』はふだんの茶の作法における「茶湯の儀」を詳細に記述しており、その中で、軽く再焙煎することで、茶の香りが引き立ち、より芳醇でまろやかな味わいになり、お茶の飲み口に荘厳さと優雅さを添えると記している。

茶の風味は自然から生まれる。雨露が茶を育み、太陽の光は香りを、土壌は茶の質感を、そして気候は茶の個性を形作る。茶師は時と場所に応じて、茶葉の個性を的確に捉え、自然と茶本来の特質に基づいて茶を造り上げなければならない。茶園での植え付け、栽培から、茶葉の摘み取りと製造、茶道の披露まで、心を集中させることで精神を高揚させ、心を落ち着かせることで入神の域に達する。こうしてお茶と人は真に一体となるのだ。

お茶は、物質世界を表現するだけでなく、精神修行の反映であり投影するものでもある。お茶は心を癒す器であり、悟りへ導く舟である。お茶と人は融合し、技と心は育まれる。この春、お茶と共に過ごす時間をもっと増やしてみてはいかがだろう。

【出典】東華禅寺
翻訳/古橋奈津子